新進気鋭の画家、伊藤香奈先生。 東京を拠点に制作活動をされている伊藤先生は、個展はもとより、ホテルの客室に病院に壁画をお描きになったり、絵本や瓢箪人形を制作されたりと、幅広く活動されていらっしゃいます。 今回は、伊藤先生に、ミライフ®をキャンバス代わりに絵を描いていただきました。
1.ミライフ®(ポリエステル不織布)の透け感
伊藤先生によると、ミライフ®は和紙のような「透け感」があると同時に、絵具が裏側に浸み出てしまうので工夫が必要であったとのこと。 そのあたりを詳しくお聞きしました。
<ミライフ®の透け感を活かしてみる>
―普段、使われているキャンバスとの違いは何ですか-
普段は、アクリル絵具用のキャンバス(綿とポリエステル系合成繊維の混紡)や木製パネルを使っています。 ミライフ®は不織布であり、「透ける」という点が大きく異なります。 この素材感をうまく使うことができればいいのですが、絵具が裏側に浸み出てしまうので、どのようなスペックのミライフ®を選ぶかということが重要でした。
-どういう基準でミライフ®のスペックを選ばれましたか-
ミライフ®を使うなら、普段のキャンバスとは異なった質感で、新鮮な感じを出すことができればと思いました。
目が粗すぎると、「透け感」は表現できるのですが、絵具が裏まで浸みてしまい描きづらいので、「透け感」と「描きやすさ」を勘案して選びました。 より布に近い質感の作品にするには、今回選んだものよりも、もう少し目の細かいものが適していると感じました(文末に注記)。
<絵具と水分量のバランスを考えて、実際にミライフ®に描いてみる>
-普段とは違い、何を意識されましたか-
水分量が多いと、紙では滲むものが、ミライフ®では裏に浸み出てしまうので、絵具と水分量のバランスに注意しました。
-ミライフ®に描くための課題は何でしょうか-
通常、布生地に描いたり、染めたりする場合には、布生地をピンと張った状態にします。そうしないと描きずらいし、染めずらいからです。 今回は、ミライフ®の素材感を出すために、あえてパネルに貼ることもせずに直接描きました。 ミライフ®に大きい作品を描く際には、「ピンと張る」、「パネルに貼る」などの工夫が必要です。
普段のキャンバスに近づけるためにミライフ®をどう使うか、というよりは、ミライフ®の特性を生かすような手法を選ぶことが重要だと感じました。
<通常のキャンバスに描いた作品と比較してみる>
伊藤先生が木製パネルにお描きになった作品 <はぐれないように> と比較してみましょう(部分)。
ふたつの作品を比較すると、画題は異なりますが、明らかに質感に違いがあることがわかります。 ミライフ®の持つ繊維感がそのまま作品に現れており、独特な感じを醸し出しています。
<従来のキャンバスの代わりにはならない。 素材特性を生かした、新たな画材としての可能性がある>
-ミライフ®は画材に向いていますか-
率直に言って、従来のキャンバスの代わりにはならないと思います。
「よれない」、「反らない」という特性は、紙と比べても描きやすいし、アクリル絵具との相性も良いです。 更に、「軽い」、「たわまない」、「皺にならない」という特性は、極めて大きな作品の制作が可能だと思います。
ミライフ®の銘柄によっては、絵具が裏に浸み出すという欠点はありますが、目の細かさにバリエーションがあるので、表現の幅が広がる可能性があります。
-その他に、画材として要求されることはありますか-
絵画は、その劣化が問題になるケースがあります。ミライフ®は害虫や紫外線による劣化も少ないと思いますし、温度や湿度の変化にも強いので、絵画の保存という観点からは、美術作品の素材に適していると言えます。
-伊藤香奈先生、このたびは、ミライフ®を使用した作品の制作を快くお受け頂き、誠にありがとうございました。 また、貴重なご意見は今後の参考とさせていただきます-
(注記:ミライフ®は目付け(単位面積当たりの重さ)によって銘柄が異なります。目が細かくなるにつれて目付が大きくなっており、今回は、TY2525FE(50g/㎡)という銘柄を選んでいただきました)
伊藤香奈先生のブログ:http://blog.goo.ne.jp/momokana0707
<伊藤香奈展 絶賛公開中!!2017.11/12(日)~11/25(土)(ギャラリーゴトウ)>
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